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徒花まみれの心臓【BLEACH】

第9章 想い人、圏外










毎年毎年、この日になると痛む傷。霊圧が騒ついて落ち着かない。思い出すのは、まだ幼かった少女の微笑と、最後の言葉。






「オイコラ待てやハゲ真子! どこ行くねん!」


「一々なんやねん、散歩や散歩」


夕飯までには帰って来いよと言う拳西はこの100年ですっかり主婦になってしまった。適当に返事をし、アジトにしている倉庫を出る。空中散歩をしながら考えるのはやはりあの日の事で。藍染の策に嵌まってしまった自分、そして救ってくれた喜助。藍染がいつか何かをやらかすことが分かっていたからこそ、見張る為に自分の副隊長にした……つもりだった。そう、藍染の危険性も不気味さも、俺は分かっていた。しかし、あの少女のことを、分かっていなかった。


「何でや…何でお前が藍染に付いたんかが未だに分からへんわ……、……なァ市丸、」


何にでもすぐに染まってしまうような白銀の髪、元来持ち得ている儚さを倍増させるかのような淡い水色の瞳、いつも浮かべられていた胡散臭い微笑。まだ子供のくせに気遣いだけは人一倍上手で、誰にも弱みの片鱗すら見せない完璧主義者。俺はただ心配だっただけだ。あまりにも子供らしくなく、そして自分に無頓着なあいつ。心配だった、放っておけなかった。


「平子隊長、」


誰よりも市丸に構い、市丸を大切にし、市丸を愛でたのは、この俺だと自信を持って言えるほどに俺はあいつを気にかけていた。最初は警戒されていたが次第に懐いてくれて、あの日までは俺を慕ってくれていた……と思っていた。あいつの本音が聞ける度に嬉しくて、あいつが俺だけに弱みを見せてくれたのが嬉しくて、あいつが心を開いてくれたことが嬉しくて。……あいつの心を開こうとしていた俺の方が、逆に開かされてしまったような。


「お前……、こんな時間まで残っとったんか」


「ひゃあ、驚いた。平子隊長でしたの……すんません、仕事が中々終わらへんくて。せやけど大丈夫です、もうすぐ終わりますんで」


「アホが……誰や、こないな量の書類をお前にやらせた奴。いくら三席云うてもまだ子供やねんぞ、そこらへん分かっとるんか問い詰めたるわ」


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