第7章 そっと小さな声で「 」ってね
居た堪れなくなって、瞬歩でお風呂に向かった。……だから乱菊には見つかりたくなかったんだよ、君は何かと鋭いから。情事独特の匂いが染み付いてしまっていたのだろうと唇を噛み締め、隅々まで体を清める。どんなにこすっても湯で流しても自分の体は汚いままのような気がして、そう思うと自然に手の力が強まっていく。気付いた時には体中がヒリヒリと痛みを伴っていた。
「……あかんわ」
思うようにいかない。感情のコントロールができない。大切なものが増えすぎてしまっている。いずれ、全て捨てなければならないのに。この調子では全て無駄になってしまう。耐え忍んできたこの数百年は、乱菊の魂魄を取り返し、二重スパイという使命を全うしなければ、報われないというのに。腹立たしい。自分自身に腹が立つ。ギリリと奥歯を噛み締めて、苛立ちをぶつけるように壁を殴った。
「…ただいま」
「お帰り。じゃあ早速、此処座りなさい」
乱菊がポンポンと叩いた場所に座る。これから乱菊に訊かれるであろう事に関しては、心苦しいけれど曖昧にしなければならない。いつものように微笑を貼付け、乱菊が煎れてくれたお茶を啜った。
「あんた、体調はもう大丈夫なの?」
……少し、拍子抜けする。
「へ、あ、うん…大丈夫。そも、体調は別に悪なかったんやけどね」
あれは阿散井クンに無理矢理気絶させられたようなものだし。
「そう、ならいいわ。……―――さっきも言ったけど、相手については訊かないでいてあげる。あんたが話してくれるまで聞かないし文句も言わない」
乱菊のその言葉に驚いて、思わず目を見開いた。湯呑みを机に置くと、気まずい沈黙がこの空間を支配する。
「…愛はあるんでしょうね」
「………あるで」
嘘ではない。藍染隊長は私を愛してくれてる。これは決して自惚れではなくて、彼が本当に私を愛してくれているのだと感じるから。私だって、彼に対しての愛はある。嘘じゃない。