第9章 西国見聞録
「瑠璃?」
振り返って呼んでも、姿も返事もない。
周囲の変な気に気を取られている間に、
光秀は瑠璃の姿を見失った。
(連れ去られた?)
人混みに紛れ、逸れてしまっただけだと思いたかった。
「瑠璃っ」
「なっっ、突然、何しはんの⁉︎」
瑠璃は引き摺られながら、必死に抵抗しようとしていた。
けれど、呆気なく
「連れて来ました」
「え?」
「はっ?……どんな女でも良いとは、言ったが、普通の女じゃねぇか。
これじゃ、誘拐だつーの!」
「でっ、でもっっ、すっげぇ、上玉でっせ?」
瑠璃そっちのけで、口の悪く深緋の瞳の日に焼けた男と、下っ端らしい男は言い合っている。