第2章 ケルピー先生の小遣い稼ぎ【クルーウェル先生】
クルーウェルの言葉が引っかかったが、一先ずは保留にして予定通り学園長の下へと向かった。
学園長室は普段通り開け放たれており、優雅に紅茶を飲むカラス仮面を目視できた。
「学園長、お小遣いくださーい」
「おや、もうそんな時期ですか」
勝手知ったる学園長。
用意した袋を彼に差し出し、彼も用意していたのであろう給料袋をこちらに差し出してきた。
毎回差し出す分は決まっているので値段も毎度固定だが、今日は少しばかし吹っ掛けるつもりである。
「お小遣いもう少し増えませんかね」
「経費で落とせる限界がそれですから、それ以上は無理ですよ」
「ちぇっ」
吹っ掛けていい日ではあったが、吹っ掛けて成功する日ではなかったようだ。
学園長に軽く流されてしまったのでそれ以上食い下がることはなく、中身を改める姿を見て適当にティーカップを拝借して紅茶を頂戴した。
「はい、ケルピーの角きっかり十本です」
「後で在庫補充してやってください」
「ええ。もちろん」
ナイトレイブンカレッジに補充されるケルピーの角は全て私の角だ。
ある程度の長さになると邪魔になったり頭が重くなったりといろいろ不便なので、ケルピーたちは乱暴にも自ら角を折る。
折った角は一か月ほどで再び生えてくるのでさほど心配しなくても良いのだが、生え変わりや伸び具合は個体差だ。
ちなみに私は伸びも良く生え変わりも早い方。
「そういえば、クルーウェル先生がケルピーの角を欲しているって知ってます?」
「ええ。まあ。貴方に直談判しに行くと伺いましたけど、既にご存じでしたか」
「サムが嗅ぎつけたのですよ」
商売に余念のないサムがクルーウェルにケルピーの角を売りつけようと狙っているらしい。
幸いなのか不幸なのかサムですら在庫がないらしく、今すぐとはいかないようだが。
「で、私にその話をしたということは?」
「どうせ在庫を抱えているのでしょう。譲って差し上げては」
譲る、ねぇ。
売りつけること自体はやぶさかではないのだが、使い道が分からない人に角は売れない。
危ないことに使って欲しくないのだ。
水辺で強大な力を発するケルピーの角は使い方によっては大惨事になる。
売る側にも責任があるのだ。
「クルーウェル先生を信頼していない訳ではないんですけどね」
さて、どうしたものか。