第3章 古巣に入り浸る先生【ディアソムニア寮】
しかもケルピー達は空気が読めない。
生まれたての赤ん坊馬に向かって「ハッピーバースデイ新入り!溺れ死んだ気分はどう?」とか「これ!君の肝臓だよ!鉄分豊富だから食べられないんだよねぇ!」とかやらかすのである。
最初は頭を抱えたが、まあそれも個性だと受け入れた。
奴らもソレを先人にやられて生まれてきたのだからお相子だ。
「殺した犯人が親になるのだからたまったものじゃないよなぁ」
「ケルピーは比較的温厚じゃから、近付かない限り食べたりはせんじゃろう。それ故に絶対数が少ないのじゃ。もっと食べればよいのに」
「怖いこというな。私は焼肉で十分だよ」
届けられたアイスを口に含み、肩をすくめた。
ケルピーは優秀だが、増え方に問題があるため数が少ない。
角持ちは特に悲惨な死に方をして相当世界を恨んでいないと生まれないともいう。
角もちの私はそれなりに世界を恨んで生まれてきたのだが、突飛なこの世に生を受けて恨みなどすっ飛んだ。
「っと、そろそろお暇しようかな」
「もう行くのか」
「泉の浄化を監督しなきゃならんのでね」
生徒達の憩いの場に長居は教師としてもよろしくない。
折角の放課後に授業のことなど思い出したくはないだろう。
私の授業は課題を出さない代わりに試験を重くするのだ。
日々の勉強だけ励んでくれれば楽に点数を取れるはずである。
「そういえばマレウス君」
「なんだ」
「ツノ太郎というあだ名に聞き覚えは?」
「ん?ああ、お前はあそこの連中と仲が良かったか」
「なるほど。やはり君のことだったのか」
謎の言葉に首を傾げた連中をしり目に、マレウスと二人だけで頷いた。
どこぞの監督生と魔獣が呼びだしたツノ太郎の特徴を聞いて何となくマレウスかなーと思っていたが、まさか本人が容認しているとは。
「もしいやだったらこちらから名を教えてやろうかと思ったのだが、大丈夫そうならいい。ではな。勉学に励めよ」
「ああ、また近いうちに来い」
「学校でな」
ひらひらと手を振る彼等に手を振り返し、ディアソムニア寮を後にした。
私もツノ太郎と呼んだら流石に怒るかな。