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ケルピー先生【短編集/BL/R18/twst】

第3章 古巣に入り浸る先生【ディアソムニア寮】


茨の魔女の高尚な精神に基づくディアソムニア寮。
古い友人のいる我が古巣は内装こそ多少変わっていても居心地は変わらない。
遥か昔は自室であった場所は別の生徒が使っているが、談話室への出入りは存外自由だ。
他寮の生徒でも、教師でも出入りが自由である。
OBたる私は特に気ままに出入りが出来る。

ただここ三年はとある人物が入学したことによって多少警備が厳しくなってしまっているが。
そこは元軍馬。
かの御仁に乗馬技術を叩き込んだ元師であり、今は教科担任である。
意外とすんなり入れてしまうのが役得なところだ。

「リリア、遊びに来た」
「エクウス様。親父殿は今出かけておられます」
「おやシルバー君。ではマレウス君は?」
「僕を呼んだか」

談話室の一角。
優雅にティーカップをつまんでいたマレウスが小首を傾げた。
寮服に身を包んだマレウスに片手をあげ、紙袋を見せる。

「やあマレウス君。お茶をしようと思って水羊羹を持って来たんだ。食べないかい?」
「それはいい。シルバー、準備を頼む」
「承知いたしました」

心得たように紅茶を下げ、別の茶を入れるシルバーを横目にマレウスの目の前に座る。
彼は私の所作に何も言わず、優雅に片足を組んだ。

「で、手土産を理由に帰ってきた理由は」
「茨の谷にいる仲間達の様子を聞きたくてね。手紙で現状を聞いてはいるが、やはり王族から見た様子とは別物だろう。どうだい?彼等の働きは」
「変わらずよくやってくれている。彼らあっての我が騎馬隊だ。君の全盛期に追いつく騎馬はまだいないようだが」
「はぁ……今年のホリデーは教育が必要だな……」

調子のいい仲間の手紙はともかく、王族の忌憚のない意見を伺いに来たらこのザマである。
私の全盛期など大したことはないというのに、それに追いつけないとは彼等もまだまだ。
ディアソムニア寮出身のケルピーも何頭かいるのだ。
我らが王に恥じぬ働きをしてもらいたい。

「僕を背に乗せて駆けた騎馬はお前だけだ」
「最初は力いっぱい腹を蹴るものだから頭抱えたもんだ」
「その節は申し訳なかった」
「リリアの奴がすこぶる笑うから後ろ脚で蹴り飛ばしてやろうかと思ったわ」

王城での苦い思い出に口をへの字に曲げる。
楽しい時間ではあったが、大変でもあった時期だ。
今は随分と立派な妖精に育ったようで何よりである。
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