第5章 霜天のブルーデイ《短編》
食べようとレンゲを手に取る前に、治がひと匙分を掬いとる。
それから自身の口元に持っていき、熱気を含むそれを冷ますようにふーふーと息を吹きかける。
治「ほら」
『え…?』
あまりにも自然な動作に呆気に取られていると、食べやすい温度にされた雑炊がこちらに差し出される。
予想もしていなかった手厚いサービスに、一瞬混乱してしまう。
侑「あ!それ俺がやったる!」
治の持つレンゲを奪おうと横から割り込んでくる侑。
治「弱ってるやつの隣でギャーギャー喚くなや」
ーーめしが不味くなるやろ。
そのギラついた眼光とあまりの迫力にさすがの侑も大人しくなる。
ご飯に関することで治を怒らせるのは面倒だと分かっているみたいだ。
治「口開けや」
これはなかなかに恥ずかしい。
チラと治に視線を移すが、意志はかたいようだ。
覚悟を決めておずおずと口を開き、湯気の立ち上るそれをぱくりと含む。
『んん、おいしい…!』
身体にゆっくり染み渡る、見た目と同じく優しい味。
濃すぎず薄すぎずの塩加減で、体調が優れなくても次の一口が欲しくなる。
まるで治の人柄が表れているような味付けだ。
申し訳なさと裏腹に、思わず頬がゆるむ。