第6章 跋―後日談、或いは感想戦―
「……少し会わない間におかしな様子になったな」
領地境で起こる内紛の状況についての情報交換に訪れた信玄に謙信は最初意味が分からず、怪訝な顔で「分かるように言え」と素っ気なく言う。
その様子は変わらず傲慢でやや気だるげだが、信玄は「分かるように言って良いのか?」と意地の悪い笑みを浮かべて手を近付ける。
反射的に身を引く謙信は警戒する目で「何の真似だ?」と声を低くするが、信玄は揶揄う目で首辺りを指さした。
そして謙信は昨夜にされた事を思い出し、思わず自分の首に手を当ててしまう。
その分かりやすい反応に一瞬遅れて後悔が襲う。
信玄の思惑通りである。
幸村は意味が分からず二人のやり取りに首を傾げている。
「……一応訊くが、だろう?」
「他にいるものか」
ここまできては悪あがきをするよりも潔く認め、さっさと話題を変えた方が良い。
顔をしかめて目を伏せる。
「お前がどんな顔でそんな見せつける様な場所に跡を残させたのか興味深い」
「俺はお前の報告書に興味がある。さっさと寄越せ」
「あの……何の話ですか?」
幸村が最悪のタイミングで口を挟み、謙信は鋭く睨みつける。
「あ、すみません!出過ぎた質問でしたか!?」
謙信のひと睨みで緊張する幸村に信玄がたまらず笑い声を上げ、「幸、これはな……」と幸村の耳に顔を寄せて何かを話す。
みるみる顔を赤らめる幸村に謙信は不機嫌に顔を背けた。
「……あの、無粋な質問をして、申し訳ありません」
何とか言う幸村に謙信は「もうその話はいい。信玄の無粋さは見習うな」と言い、ため息をつく。
「それで?お前はに惚れ込んでいるが弁えはあるだろう?俺がそんな首を見せたら「見苦しいにも程がある」だの「示しがつかん」と切り捨てるくせに、いくら相手がでも意外だぞ」
信玄はやっと笑い声をおさめて尋ねる。
謙信はもう開き直るしかないと首を隠す手を下ろし、不満な顔のまま「ただの下剋上だ」とだけ言う。
「下剋上?」
「……もういいだろう。貴様がこんな日に来るのが悪い」
「……ふぅん……」
少し見つめ、信玄は益々笑みを深める。
「随分と、熱烈な所有の証がついているな。これでは城下に誘い出すのにお伺いが必要か?」
見透かした事を言う信玄に謙信は「煩い」と言うが、内心、二度とに上は譲るべきではないと決心する。
