第5章 跋―振り駒狂い—
謙信なら戯れ混じりに承諾してくれるだろうと思っていた
は思わず仰ぎ見た。
「え?何故ですか?」
謙信は目を閉じて穏やかな微笑を浮かべている。
「、お前は争いごとが嫌いな優しい気性だろう?大人しく敗けを認めて膝元で愛されていろ」
余裕ある声と共に頭を優しく撫でられても、は不満を言いたくなる。
「……圧政ですよ」
「それでも好いてくれるのだから、俺は果報者だな」
謙信は目を薄く開けて極上の微笑みをに向けている。
「もう」
謙信はに「無防備だ」と言うが、にしてみれば謙信の獰猛なくせに優しく響く声、甘やかす眼差しや淡い微笑は「無自覚だ」と文句を言いたくなるくらいに色香があり、魅惑的で、結局翻弄さるままだと諦めてしまう。
月の無い夜に、百舌鳥の聲が小さく啼いた。