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【イケメン戦国】徒然後日譚―短編集—

第6章 跋―後日談、或いは感想戦―


「それで、下剋上は上手くいったのか?」
「……俺が一騎討に負ける事などあり得ん」
「接戦といったところか?」
「煩い」
「まぁ、とうに篭絡しているのだから今更だな」
「いい加減にしろ。貴様と戯言を言う気はない」

「お前、に会っても妙な事を聞くなよ」
幸村が席を外した隙に謙信が声を潜めて言う。
既に信玄を愉しませたとあってはムキになってもつけ上がられるだけだと溜息をつく。
「どうしたものかな」
「おい」
謙信が睨むと信玄は小気味よく笑う。
「ははっ。お前がどう下剋上されたのか、少し教えてくれればに無粋な質問はしないと約束しよう」
にやりと笑う信玄に謙信は少し考えるが、信玄が閨の話をに持ち掛けるのは非常に不愉快である。
背に腹は代えられぬと目を伏せて短く答える。
「……あいつの望みに応えただけだ。一騎討を申し出られれば受けない訳にはいくまい」
「なかなか大胆な事をしているな」
「言っておくが、下剋上は遂げていない。変な想像はするな」
しかし、実際には先に音を上げたのは謙信であり、充分に討ち死にした気分ではあった。
「色々と想像したくなるがな」
揶揄う笑みをおさめない信玄に謙信も顔をしかめる。
「するな。あれの事も俺の事も想像するな」
謙信が荒れる前に信玄も「まぁまぁ」と鷹揚になだめる。

「感慨深いものだ。ついこの間まで女を寄せ付けないどころか嫌ってさえいたというのに。すぐに散るような儚い物を傍に置くのは嫌なのだろう?」
「あれは儚く見えるが、決して散らぬ。俺がそうはさせん」
きっぱりと言う謙信に信玄は一瞬目を瞠るが、すぐに破顔した。
「それは良い。随分吹っ切れたな。自信家なお前らしい」
穏やかに笑う信玄に、謙信はふと言う。
「……お前も一人に落ち着いてはどうだ?」
何気ない言い方ではあるが、普段の不機嫌な叱責する口調とは違っているのを信玄も感じ取る。
「にか?」
はぐらかすように言う信玄を謙信が軽く睨む。
「違う。戯言が過ぎるぞ」
「冗談だ。不要な戦は避けたいからな。しかし、何故そんな事を言う?」
信玄の問いに謙信はさっぱりとした表情で言った。
「塩を送ってやってるのだ。有難く受け取れ」
「……なるほど。心にとめておこう」
穏やかに笑う信玄に、謙信もふと淡い微笑みを唇に浮かべ、「そうしろ」と言った。
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