第1章 めんどうごと
「なあなあ、お前ら。あの噂、聞いたか?」
「「「噂?」」」
エースの問いかけに、三人の声が被る。僕と、デュース、グリムだ。
「今朝、学園長が医務室に女の子を連れ込んでたって話だよ!」
思わずブッと咳き込む。鼻からティッシュがとびだしたが、まだ鼻血は止まっていなかった。
「そ、その言い方だとまるで、学園長が援交してるみたいじゃないか?ないだろ、学園長だぞ?」
「実際に見たやつがいるんだよ、超美人だったらしいぜ!」
「…ゴホン」
目撃者いるのか…
わくわく顔のエースと、一見興味なさげだけど若干好奇心に溢れているデュース。…もしかして、その女の子を見るためだけに僕についてきた?二人とも……
「…エンコー?ってなんなんだ?」
「グリムはそのままでいいよ……」
そうこうしている内に、医務室の前までたどり着いてしまった。え?僕?男の子だもん、気にならないわけがない。
「いざっ、参る!」
エースが勢いよく戸を引いた。
「………だれもいない…ね」
「…だな」
「はぁ…」
エースは分かりやすすぎる落ち込み具合で、うなだれた。デュースに至っては重いため息まで。四人で目を合わせ、仕方がないので傷の手当てだけして授業に戻ろうということになった。
「…男子校で素敵な出会いがあると期待した俺がバカだった」
「言うなエース…よし、できたぞ監督生」
「ありがと…」
「なんでお前ら落ち込んでるんだ?」
ただ一匹、グリムだけはいつも通りの調子でいた。それにしても、僕がもとの世界で通っていた学校も男子校だったからな…女の子の出会いは欲しかった。それが例え、学園長の援交相手でも……
「それよりお前ら、この部屋始めて来たけど、花みたいな良い匂いがするんだゾ!食い物以外じゃこの匂いはけっこう好きなんだゾ!」
「…医務室に花なんて飾ってたか?」
「いや…」
医務室の責任者が匂いのあるものは好まないため、花は愚か、消臭剤もおいていないというのはこの学園では有名だった。
「……ちなみに、どこから匂いがするかとかわかる?」
グリムの脇をガシッと掴み、訪ねる。
「たぶん、奥のベッドじゃないか?」
その言葉を聞いた瞬間、三人で目を合わせる。入学して以来初めてじゃないだろうか、三人の考えていることが完全に一致したのは。