第1章 めんどうごと
「は?異変ですって?」
「そうよ~、あなたもちょっと前から気づいてたでしょ。尋常じゃないほど瘴気が増えてるのよ」
にこにこと大妖怪が笑う。
ここは博霊神社。日課である境内の掃き掃除をしていると、突然空中のスキマから紫が顔をだし、「異変よ!」と騒ぎだした。なんとなくウキウキしているように見えるのは、多分、気のせいじゃない。
「たしかに最近それのことでぼやいてたけど…べつに異変ってほどでもないんじゃないかしら。前にもこんなことあったし、すぐ元に戻るわよ」
「まあね、でも今回は別」
扇子をバッと開き、口を隠す。どうやら真面目な話のようだ。
「今現在幻想郷中に漂っている瘴気…どうやら幻想郷で発生したものではなかったようなの。幻想郷以外の別の場所で発生した、別の世界から流れてきたものみたい」
「それがどうかしたのかしら。忘れられたものがたどり着く場所なんでしょ、ここは。瘴気も同じよ、異変でもなんともないじゃない」
はんっ、と笑って、止めていた腕を動かす。紫にしては珍しい。今までも瘴気が絡んだ話題はあったけど、ここまで執着する姿勢は見せなかったのに。
「だんだんと量が増えてきているの。
もう人里の人間達もうすうす勘づき始めてるわ」
なるほど、普通の人間でも感じ取れるレベルの瘴気なのか。となると、多いだけじゃなく、かなり濃ゆいものの可能性がある。
「瘴気は病気の元にもなるし…そろそろなんじゃない?人間達からお祓いの要求がドサドサくるのは…
博霊の巫女は大変ね~」
クスクスと紫が笑う。なんだかうまく丸め込まれている気がするけど…まったくその通りだ。かなり面倒くさいことになりそう。
「はあ~…わかったわよ。ちゃっちゃと異変解決してやるわよ」
「それでこそ楽園の素敵な巫女よ」
面倒くさいといえば面倒くさい、のだけど、実際私も今回の瘴気は何かおかしいと思っていた。異変と証して原因を突き止めにいくのも悪くないだろう。
「それじゃ、準備なさい。今回はかなり長旅だろうから、しっかり準備するのよ」
「もう、わかってるわよ」