第5章 いらっしゃいませ、御主人様
時は十月。
私の学校では文化祭の準備が着々と進められていた。
「柚可愛いじゃん!」
何でも私のクラスはメイド喫茶に決定となり、
そのメイド担当に任命された。
「ちょっと、スカート短くない…?」
「大丈夫大丈夫!屈まなければ見えないって!」
ディスカウントショップで購入したのは、
胸元がハート型に空き、ニーハイソックスにフリルがついた黒のメイド服。
ーーみんな他人事だと思って…!
「可愛いじゃないか神崎」
放課後の教室で準備中の私達に声をかけたのは橘だった。
「でしょ〜!我がクラスにピッタリの役じゃない!?」
「そうだね。宜しく頼むよ神崎」
橘の姿に友達数人が目の色変えて近寄り甘い声を出す。
当然その姿は表の顔で、
本来の顔を知る人間はいない。
私はバツの悪そうに橘から目線を逸らした。
兄と映画館で会って以来、橘は私の体に触れなくなった。
勿論それはよかったなと思う反面、
何かを企んでるんじゃないかと不安になる。
それにはっきりと断るキッカケもないままで、
私自身の区切りもなかなかつけられないままだった。