
第2章 IFストーリー 蝶と嘘つき狐 【注意:悲恋要素あり】

場所は変わって、安土城下の裏道。人が殆ど通らない場所があった。そこでは大広間の話題に出ていた例の女が光秀に腕を絡ませながら、歩いていた。
「ふふ…光秀さん。一体いつになったら私と褥を共にしてくれるの?」
女は甘える様な声で光秀に近寄った。その女は濃い化粧をして真っ赤な口紅を付け、とてもきつい香の匂いを漂わせていた。
「クックッ…それはお前が有益な情報をもたらしてくれたらな。」
「あら、意地悪。…でも、そんなところも好きよ。」
女は光秀の顔を自身に向けさせ口づけをした。光秀はその瞬間に驚く素振りも見せずにただその行為が終わることを待っていた。
「…ふふ…またね。光秀さん。」
「…ああ、また会いに来る。」
光秀がそう言うと女は満足したようにその場から去って行った。漸く、きつい香の匂いから開放され光秀は近くの木にもたれかかった。
「…漸くか、やっと捕まえられる。」
光秀はずっと足取りを探していた、密売の証拠を決定づける為に、あの吐き気がしそうな女と密会していた。その女は密売犯の妻らしく、光秀が少しでも甘い言葉を囁やけばコロッと何でも話してくれた。…きつい化粧、吐き気がしそうなあの香の匂い。本当に女という生き物が嫌になってくる。光秀はさっきの女に嫌悪感を抱きながらも、ここ最近一緒にいて心地良くなる、あの蝶の様な少女の事を思い出していた。あの小さな背中に近づくだけで最近の彼は随分と心が軽くなっていた。
「…本当に、どうかしているな、俺は。」
光秀は自重気味に笑いながらもあの少女の下に帰り、また非難される事を心待ちにした。彼女のあの心配そうな瞳を見るたびに光秀は何か別の感情が湧き上がる事を感じていた。
場所は変わって安土城の天守閣。信長に先程の女から教えられた情報を伝えるために光秀は訪れた。
「…大儀であった、光秀。貴様にばかり汚れ仕事をさせてしまい、心苦しく思う。」
「…そんなことを、仰らないで下さい。御館様。…俺は望んでこの仕事をしているのです。」
光秀は無表情のまま呟いた。それを見ていた、信長は彼をじっと見つめて呟いた。
「…しのぶが貴様を心配していた。あやつの下に行かなくて良いのか?」
「…俺には関係のない事です。」
「…俺がしのぶを妻に迎えると言ってもか?」
信長は光秀をただじっと見つめていた。まるで、返答を待つように。
