第1章 大人と子供【完結】
「で、でも一郎くんは頑張ってるよね」
「そっちの方面じゃ無いです。さっきも言ったっスけど、俺、欲張りなんで諦めないことにしました」
「うん、それも聞いたけど……」
「その中にさんの事も含まれてるんで」
「へ?」
私が間の抜けた返事をしてると携帯の向こう側で笑う声が聞こえた。あの時の笑顔が蘇ってくる。きっと同じ表情をしてるのだろう。
「そういうわけで、じゃあ失礼します」
「え、ちょっと待って、一郎くん!」
聞きたい事はまだいっぱいあるのに、一郎くんは一方的に電話を切ってしまった。
「えぇ~」
聞こえてくるのはツーツーという機械音のみ。
「そういう事、本当にそういう事?」
私のこと諦めない、欲張りって、そういう意味でいいのかな。でもかけ直して確かめるのは恥ずかしいし声だけじゃ冗談か本心かなんて判断できそうにない。
「う~、悔しい」
私の方が年上なのに翻弄されてこんなにドキドキして。
「決めた、春休みも実家に帰ろう!」
バイトを増やせば交通費も何とか出せる。
直接会って本心を聞きだしてやるんだから。
なんて、理由をつけてるけど本当は単に私が会いたいだけだったって気付くのは、暖かくなって一郎くんと直接顔をあわせた時だった。
~終わり~