第10章 先輩の責任
「もういいじゃないですか」
張り詰めた空気の中、声のする方へ振り替えると同期の吉野だった。
「ネタ作りにくいってそれ一本でやってるわけじゃないですよね」
「……まあそうだけど」
「じゃあ良いじゃないですか。それに客からからかわれるのも今だけだと思います、笑いに変えたら株上がるんじゃないですか。それ意外に理由があるんだったら話し聞きますよ」
「わかったよもういいわ」
先輩は軽く手を上げて去っていった。
「おおきに、空気悪くしてすまん」
「大丈夫っすよ、よく言うんですよ余計なこと。今日のネタは普通にスベってましたし」
「吉野くん、シッ!」
「いいのいいの、前から思ってたことだし。それに俺芸人辞めるから」
「辞めんの?」
「俺もカミングアウトした」
「え?」
「俺もお二人と同じで」
「同じって」
「それで今月解散することになりました」
「え……俺達のせい」
「違う違う、良かったんだよこれで。利害は一致してるから」
「一致?」
「そもそも相方は作家志望だったし、俺はその……相方を好きになりそうになってて、コンビ組んでるのが辛いって打ち明けた」
「そうやったんや」
「だから放送見た時とうとう来たと思ったんです、言える環境作ってくれた二人に感謝してるんですよ」
こんな意見を言ってくれる人もいるんだ。
「吉野君の手助けになったんか。俺ら言うて良かったやん!ここまできたら革命やな!ハハハハ!」
調子良いんだから簓さんは。
「よし!吉野君飲み行こうや!積もる話しもあるやろ、聞いたるで!」
「マジすか!行きます!」
「行こ行こ!相方君も誘って行こ!俺の奢りや!」
放送があってから盧笙さんから連絡があった。
「とうとう言いよったでコイツら」
「これが例の簓の男か?」
「ああ」
「ほう、どうだ?キューピットさんお気持ちは」
「零、からかうなよ」
「からかっちゃあいないさ、嬉しいもんか?」
「嬉しいっちゅうか、親の気分やな」
「良い父親になれそうだな盧笙」
「だからからかうなって」
盧笙さんは天谷奴さんと一緒にこの番組を見ていたそうで、そんな会話をしたと世間の反響だったり情報を楽しそうに教えてくれた。
「いろいろあるやろうけど頑張れよ」
盧笙さんの一言一言がとても染みる。
気のせいかもしれないけど、盧笙さんの未練を俺に託してくれているように感じた。