第10章 先輩の責任
心配していることがある。
芸人はファンからアイドル感覚で見られることがたまにある、彼女がいるとわかったらファンが減ることも。
簓さんのファンは多いし幅広いから全く想像できない。
何せ相手は女ではなく男だから。
しかし“ファンはタレントの鏡”とは良く言ったもので、簓さんのファンは常識溢れる方達が多い。
「大丈夫!俺のファンやもん、分かってくれるはずや!」
簓さんはそう言っていた。
もう一つは芸人だ。
内輪話では祝ってくれる人もいれば批判する人もいた。
芸人全員がそういう目で見られたら困る、ネタに支障が出る。
そういう意見があった、当然だと思う、とにかく俺は謝った。
自分だけ幸せになれることばかり考えていた。
他人に迷惑かけてまで発表することだったのかと自問自答した。
放送後、簓さんと劇場に立った日があった。
その日、事務所の先輩に詰め寄られた、あの放送は失敗だったと。
「ご迷惑お掛けしています」
「お前らはいいやろうけどさ、客から俺達までホモじゃないかとかいじられたんだぞ」
「すみません……」
「ウケでそういうネタすることたまにやるじゃん、そういうのもタブーになってんだぞ芸人の中で」
何も言い返せなかった。
「白膠木来てんだろ?呼べよ、あいつから何も聞いてないんだけど」
「探してきます」
楽屋に簓さんの姿は無かった。
楽屋を出て自販機辺りを探してみたが見つからない。
どこに行ったんだろう。
「すいませんでした!」
大きな声で謝る声が聞こえた。
簓さんだ!
すれ違いで楽屋に戻っていたのだ、追いかけて戻ってみると、そこには深く頭を下げている簓さんがいた。
「俺なんです全部!は責めんといてください!」
簓さん……。
「それどっち?後輩を守ってんの?彼氏を守ってんの?」
「野暮なこと聞かんといてくださいよ」
「は?白膠木お前先輩に対して何なのその言い方」
さっきまで真剣に謝っていたのとはうって変わって珍しく不機嫌だ。
先輩に失礼な言い方してる簓さん見たことない。
「そっちやんけ」
「あ?なんだって?」
ヤバイヤバイヤバイ!
「すすすすみません!!」
俺は簓さんの頭をガシッと掴んで二人で頭を下げた。
「イテテテ!なんや!」
「(簓さん!丸く収めようよ!)」
「(せやかてっ)」
楽屋の空気はもう最悪だった。