第3章 記憶
ついに出勤初日の朝。
今日は理事長との面談など、授業をする訳ではない。
先日買ったばかりのグレーのスーツを身につける。
ヒールを履き、昨日買っておいた菓子折を持っていざ学校へ。
先生方は生徒より早く出勤する為、まだ道に学生はいない。
ホテルから徒歩で15分程の道を歩き、昨日竈門くんに教えて貰った正門をくぐる。
無事に着いて良かった、なんて思っているのもつかの間、
(しまった!学校の中の構図がわからない!)
一先ず建物へ向かい、途中先生らしき人に出会う事を祈る。
すると祈りが通じたのか?
白髪の目の大きな上品な女性がわたしを迎えに来てくれた。
「先生ですね?お待ちしておりました。」
こちらへ、と理事長室へ通される。
「先生、よく来てくれたね」
部屋へ入ると、窓の外を見ていた黒髪の男性が振り向き、不思議と心が懐かしくなる、安心する声で出迎えてくれた。
「本日よりお世話になります。どうぞ宜しくお願いいたします。」
お辞儀をして顔を上げると、理事長の顔はいつかの両親と同じ複雑な顔をしていた。
「…まだ記憶がないんだったね」
その小さく呟かれた言葉に、両親の言葉が重なる。
『いずれその時が来る』
「あの…」
「すまなかったね。気にしないでおくれ。
さ、他の先生方に挨拶しに行こうか」
理事長はわたしの言葉を遮り、隣の職員室へと向かった。
また、気にしなくて良いの?
みんなはわたしの知らないわたしの何かを知っているの?
モヤモヤした気持ちのまま理事長の後に続く。