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マイハート・ハード・ピンチ

第1章 屋上ランチ


「珊瑚」
薄いグラスの透き通った表面のような声が珊瑚を呼び止めた。
「…聖司さん、お疲れ様です」
二人とも学園演劇の台本をもらいに視聴覚室へと続く渡り廊下を歩いていた。
「部活も忙しいのに、演劇のヒロイン役なんて、大変だろ」
聖司の態度は素っ気ない。でも、これで落ち込んでいては初心者。この人の場合、こうした素っ気ない態度のは時として「好き」の裏返しであることを、珊瑚は把握していた。
「何を今更、誘ったのは聖司さんでしょ。でも、チェーホフの『かもめ』はわたしも好きだから、ちょっと楽しみなんです。チョイスが聖司さんらしい」
珊瑚の言葉に、聖司は顔を綻ばせた。
「そうだろ。お前とは、本の趣味だけは合うからな」
聖司は自慢げに胸を張ったが、珊瑚は「だけ」にちょっとムッとした。
音楽も映画も、服の趣味だって、バッチリ合っているつもりだったから。
「ほんと、聖司さんは『かもめ』のトレープレフがはまり役」
彼女が突き放すように言うと、聖司は戸惑ったように立ち止まる。
「それは褒めているのか?」
その様子に満足した珊瑚は、彼の方を振り返り、ふふっと微笑んだ。
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