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マイハート・ハード・ピンチ

第5章 夏の庭、ホームパーティ


少し経って、夜空にひとつ、花火が上がった。
すると、先ほどまで熱心に聖司と珊瑚をとりまいていた人々は一斉に花火がよく見える庭園の端へと移動した。
聖司はひどく疲れ切った表情で、珊瑚のそばに腰掛ける。
二人はみんなとはすこし離れたベンチで、花火を見上げていた。

しばらくは、二人とも黙って空を見上げていたが、不意に珊瑚が口を開いた。
「聖司さん、なにか迷ってる?」
珊瑚の問いに、聖司は少しうろたえた。が、すぐに持ち直し、
「お前に気にかけてもらうような事じゃない」
と、平常心を装った顔で答えた。
珊瑚はこれ以上追求すまいと思った。
が、同時に、胸の奥にある不安感から、気がつけば別の質問を投げかけていた。
「聖司さんにとって、わたしは、あの子たちと一緒?」
珊瑚は先ほど聖司をとりまいていた女の子たちを指差した。
聖司ははっとして珊瑚のほうを見、口を開いた。
「そんなーーーーー」
と、同時にクライマックスの花火群が打ちあがる。
夜空には8000発の大輪の花が狂い咲いている。
花火によってかき消された聖司の声は、珊瑚には届かなかった。
珊瑚は、花火を見つめながら、視線を逸らさずにつぶやいた。
「わたしがいま、ここにいる理由って、なんだろ。名門吹奏楽部のコンミスだから?有名人の娘だから?雑誌でインタビューを受けているから?…聖司さんが音楽を辞めちゃったら、わたし、どうやってあなたの隣にいればいいか、わからない」
そう言って、珊瑚は気がつけばその場から駆け足で立ち去っていた。
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