第10章 10
こっちにきて五か月がたった。
香蓮さんのいう余命が徐々に近くなっていく。
香蓮さんの体調は以前に比べてすごくなみがある。
動けないときはまったく動けないのだ。
これも病状進行の影響であろう。
それでも調子のいいときは、相変わらずうちをからかってくる。
今日はどうやら調子がまだいいようだ。
そのからかいに、つっこみをいれながら、はいはいといつも通りに対応していると
「えま。あんた、好きな人とかいないの?」
と唐突に聞かれた。
「え!?なんでまたいきなりその話題に!?」
「だって~普通女同士っていえば恋バナするでしょ?」
「いや、まぁそうですけど…」
「なんなの?いないのー?」
「彼氏なんていませんよ。好きな人もいません。なんですかー?私がアラフォーだから、結婚できるか心配してくれてんですか?」
「ぎゃははは!そうそう。あんたが誰と一緒になるか知らないけど、心配で死にきれないってー」
「今はいいんです。いらないっていうか、まぁいつかできるっしょ?」
「もうおばぁちゃんになってたりしてねー(笑)」
「むきーーーーー!!!」
「ぎゃはははは!あーおかしい!!!」
「もーお花のお水変えてきます!」
プンっとして花瓶を手にとり、水道をひねる。
「わたしは…あんたにかかしをまかせたいんだけどな…えま」
その言葉は、水道の音にかき消されて、私は何も聞こえなかった。