第6章 文化祭 *
ふわりふわりと揺れる風の音。
時折消毒の匂いが、鼻先を掠めて病院にいた時の事を思い出し、少し複雑になる。
あんなに意気込んで行った割には、撃沈した。
クラスメイトの顔も名前も覚えていない事実。
能面の彼らが、自分を憐れんでいるようで怖くて、聖臣に縋りつくしかなかった。
何で…こんなに弱いだろう?
優しく抱きしめてくれる聖臣に甘えて、次第に眠くなる傍ら、誰かと聖臣が話している事にも気づかずにいた。
何時間寝てたのかな?
少しずつ夢の中から覚めて、現実に戻っていく感覚。
ここは、心地良くてずっと居たいのに。
だってココは、私をいつも守ってくれる彼らだけがいる世界。
『いつまで、そこにいるの?
ほら呼んでる、また慰めてもらいなよ』
背後からまた私を引きずって、連れていくもう一人の私。
冷たい風に煽られ目が覚める。
布団から起き上がると、中学から仲が良かった結衣ちゃんが、ニッコリと覗いている。
「おはよう?こんにちはかな?」
「結衣…ちゃん…結衣ちゃん~」
「あ~はいはい、覚えてくれてありがとう」
結衣ちゃんは、中学から一緒で大の仲良し。
高身長のショートカットが良く似合う子。
性格が、サバサバしているせいでよく聖臣と意見が合わず揉めていた。
久しぶり会う親友に、思わず泣きながら抱きつく。
「木崎!離れろ」
「あ~旦那が帰ってきた、こんなに可愛い沙耶を渡したくない~」
「ふざけるな、沙耶は病み上がりなんだ。
お前が抱き付くと、体調が悪くなるだろう」
また始まった。
喧嘩すると長いからな~。
ヨシヨシと頭を撫でて、緩めることない腕を無理やり剥がそうする聖臣に、傍で見守っていた元也はげんなりしている。
中学以来のこの展開に、少し笑みが零れた。
この状況を打開するため、元也へ必死にアピールしてみる。
元也は、溜息をつきながらお弁当を結衣と聖臣の前にチラつかせる。
「全く!お前らな、もうちょっと仲良くできないの?」
「佐久早が悪い!沙耶を独り占めする」
「お前なぁ!いい加減に離れろ!」
お腹に聖臣の腕が入ったと思ったら、そのまま引き寄せられる。
「沙耶気分は、大丈夫か?」
聖臣は、抱きしめながら聞いてくる。
本当に心配症だな。
夢の事なんか忘れてしまいそうだ。