第15章 引き合うさびしさの引力
長い卒業式が終わる。
明日から、彼らはナイトレイブンカレッジの生徒ではなくなるのだ。
卒業生たちは学園から去るのを惜しみながらも、1人づつ闇の鏡を潜り故郷へと帰っていく。
1人、また1人。
鏡の間から卒業生たちが去ってゆく。
最後に鏡の間に残ったのはアズールとジェイド。そしてフロイドの3人だった。
アズールとジェイドはフロイドを見る。
フロイドはジッと闇の鏡を見つめていた。
「フロイド。僕たちもそろそろ帰りますよ」
動きそうもない彼に、ジェイドが声をかける。
するとフロイドは「あーあ」と両手を後頭部にやり、上を向いた。
「オレさぁ、心のどっかで小エビちゃんはオレたちが卒業する前に戻ってくるんじゃないかって思ってたんだよね」
いつもより大きめのその声は、3人以外誰もいない部屋によく響いた。
一見元気そうにも見えるフロイドだが、彼が上を向いているのは、涙が溢れてしまわないようにするためで、いつもより声を張り上げて喋っているのは、声が震え、泣いていることを悟られないようにするためだということをジェイドもアズールも気付いていた。
暫く、3人は無言でその場に立ち尽くす。
そして漸くフロイドが顔を戻した時、アズールが「フロイドっ!」と焦った声を上げた。
フロイドがアズールに「なに?」と聞く前に、彼自身何故アズールが焦った声で自分の名前を呼んだのか理解した。
短く切れていた筈の、自分の右手の小指に巻きつけていた筈の赤い糸が、長く長く伸び、闇の鏡の中へと続いていた。
くんっ。と、糸が引かれる感覚。
フロイドは一歩また一歩と鏡へ近づき、赤い糸が繋がっている右手で、闇の鏡に触れた。
すると、ぱあっと暗闇を映したような鏡から眩いばかりの光が溢れ出す。
「_______小エビちゃん?」
フロイドが鏡に向かって呼びかけた。
すると、今までいくら呼びかけても返事が返ってこなかった鏡から_________
「こんにちは。フロイド先輩」
フロイドが一等好きな言葉と、そして笑顔が見えた。