第15章 引き合うさびしさの引力
「フロイド」
寮に戻ったフロイドをアズールが呼び止める。
「これをお前にやります。
使うか使わないかはお前の判断に任せます」
青色の小瓶を無理やりフロイドの手に握らせ、アズールは去っていった。
アズールは何の薬なのかを言わなかったが、フロイドはすぐにこの薬が忘れ薬だと言うことに気づいた。
フロイドは電気に照らしてその小瓶を見つめる。
そして、それをポケットの中にしまった。
アズールから忘れ薬を貰って1週間が経った頃、アズール、ジェイド、フロイドの3人はモストロラウンジの経営会議をVIPルームで行っていた。
そして会議も終わり、お開きにしようとしていた時、フロイドが「オレ、飲もうと思う」と何の脈絡もなく言った。
最初アズールとジェイドの2人は、何のことか分からず顔を見合わせるが、フロイドがポケットから青色の小瓶を取り出したことで彼の言っていたことを理解した。
「フロイドが、そう判断したなら」
「えぇ、ユウさんも今のフロイドを見たらその薬を飲むことを勧めたと思いますよ」
アズールとジェイドが見つめる中、フロイドは小瓶の蓋を開ける。
キュポンと音を立てて開いた蓋。
中から決していい匂いとは言えない臭いが漂ってきた。
フロイドはゴクリと喉を鳴らす。
そしてその小瓶に口をつけようとした時、まるで走馬灯のようにユウとの思い出がフロイドの脳内を駆け巡った。
闇の鏡の前に不安そうに立つ姿。
初めて対面した時のこと。
海の中で戦った時の驚いた表情。
彼女への恋心を自覚した時のこと。
見違えるほど美しくなった彼女。
ダンスパーティーで、月明かりの中、中庭で踊ったこと。
オンボロ寮の前で、彼女にキスをした時のこと。
そして________
「こんにちは。フロイド先輩」
一等好きな、その言葉とその笑顔。
あぁ、忘れたくないなぁ。
パリンッ!
音を立てて割れた小瓶。
床と、フロイドの足が小瓶の色と同じ青色で濡れた。
「ごめん……。
オレ、やっぱり飲めないや」
へらり。
その笑顔は困った時に浮かべる、ユウの笑顔によく似ていた。