第15章 引き合うさびしさの引力
鏡の間の扉が音も立てず静かに開く。
中に入ってきたのはジェイドで、彼は闇の鏡の前に蹲み込んでいるフロイドを見つけると、足早に彼に近づいた。
「フロイド、今が何時だか分かりますか?夕方の6時です。貴方、朝からこの部屋に籠もってるじゃないですか」
フロイドは側に立つジェイドに一瞬だけ視線を向けるが、しかしすぐに鏡に視線を戻した。
フロイドはまるで鏡に……いや、ユウへの恋心に取り憑かれているようだった。
ジェイドは眉を寄せ、フロイドの背中を見つめる。
「フロイド、こんな事言いたくはないのですが、そんなに辛いならユウさんの事は忘れてしまいなさい」
一瞬の沈黙。
しかしすぐにフロイドの「はぁ?」と地を這うような声が部屋に響いた。
「フロイド、貴方は今凄くやつれています。そんな貴方を見るのは僕も辛い。
アズールに頼めば忘れ薬を作ってくれるでしょう」
絶対に飲めとは言いません。
でも、辛いなら、そういう選択肢もあるということを覚えておきなさい。
ジェイドはそれだけ言うと部屋を出ていった。
フロイドはジェイドの背中を黙って見送ると、彼が出ていってからも呆然と部屋の扉を見つめていた。
「小エビちゃん……」
また、鏡を見つめる。
呼びかけても、鏡は真っ暗だ。
「オレ、今凄い辛い。
小エビちゃんのこと、忘れた方がいいのかなぁ……?
小エビちゃんはオレに忘れられたら悲しい?小エビちゃんが悲しむならオレ忘れないよ」
鏡は何も言わない。
フロイドは、幻聴でもいいから彼女の声が聞こえてきたらいいのにと思った。