第15章 引き合うさびしさの引力
ユウが故郷へと帰ってから、1年が経過した。
あの切れた赤い糸は何故か消えることなく、フロイドの指に残ったままでいる。
フロイドもそれを外す事はせず、長く伸びた部分は自分の小指にぐるぐると巻き付け、ずっと大事に取っておいていた。
彼女が帰ったあの日から、1週間はフロイドは泣いて過ごしていた。
ぼたぼたとまるで壊れてしまった蛇口のように涙を流すフロイドに、アズールもジェイドもどうすることも出来なかった。
1年経った今では、そこまで泣くことはなくなったが、それでも授業は1年前よりもサボりがちになり、そして何より鏡の間に入り浸るようになった。
ただ1日中、真っ黒な鏡の中をジッと覗き込んでいた時もある。
このままではいけない。
それはアズールとジェイドも思ったことだが、他の生徒も思ったことだった。
普段は絶対に自らはフロイドに近づかないリドルでさえ、彼を慰めていた。
しかしその効果はなく、今日もフロイドは授業をサボり鏡の間に来ていた。
「ねぇ、小エビちゃん」
返事など返ってくるはずのない鏡に向かって話しかける。
「小エビちゃんは元気?
オレはね、全然元気じゃねぇの。
小エビちゃんのせいで今にも死にそう。
きっと今人魚に戻ったら、オレ泡になって消えちゃうかも」
誰もいない部屋に、痛々しくその声は響いた。