第15章 引き合うさびしさの引力
フロイドがユウの目の前で足を止める。
その時、ユウの左手の小指に違和感が走った。
何かが、付いている。
この感覚に、ユウは覚えがあった。
フロイドが右手を上げる。
するとユウの左手も引っ張られるように上り、ユウは上がった自分の小指が視界に入った。
そして目を見開く。
ユウとフロイドの小指には、また赤い糸が結ばれていた。
「昨日、作ったんだぁ。幻想視覚薬。
これ効果に時間がかかるし、確実に赤い糸が見えるか分かんないから不安だったけど、良かったぁ。ちゃんと見えて」
糸は、あの時の1週間目の時と同じように、実体をもって2人を繋いでいる。
これではユウが鏡を潜ればフロイドまで道連れにしてしまう。
まるで工作を親に褒めて貰った子供のようににこにこと笑うフロイドに、ユウは「何で……」と呟いた。
「何で?
そんなの小エビちゃんに帰って欲しくないからに決まってんじゃん」
フロイドはにこにこ笑いから、段々と苦しそうな表情に変える。
そして「お願い……行かないで……」と涙が混じった震える声で懇願した。
「行かないで……お願い、小エビちゃん」
「フロイド先輩……」
こんなに苦しそうな表情をしたフロイドをユウは初めて見た。
ユウは一歩フロイドに近づく。
ピンッと張っていた赤い糸が少し緩んだ。
「私が大人だったら、きっと恋に生きることができたかもしれません。
でも、私はまだ子供で、確証のない未来に故郷を捨てるほど勇気はありません。
恋に生きることはできません。
でも_______」
私の運命の人がフロイド先輩で良かった。
チョキンッ。
軽い音が部屋の中に響く。
その音は、ユウが制服のポケットから取り出したソーイングセットの中に入っている小さなハサミで、赤い糸を切った音だった。
ユウとフロイドを繋ぎ、引き合っていた赤い糸は、力なく下に垂れた。
「あっ……」
フロイドの小さな声が漏れる。
「さようなら。フロイド先輩」
フロイドが一等好きな言葉と良く似た言葉で、フロイドが一等好きな笑顔を浮かべて、ユウは眩く光る鏡の中へと消えていった。