第6章 ※夜這い星の褥※
「今・・・、私の隣りにいるのは誰だ・・・」
「あ・・・」
「今も・・・、これからも・・・、私の隣りにいるのは・・・、おまえ一人だけだ・・・。それを忘れるな・・・」
「巌勝様っ・・・」
これほど嬉しい言葉があるだろうか。じん、とした歓喜の痺れが全身を駆け巡るようだった。
「お慕いしております。何も持たない私ですが、あなたを思う気持ちは誰にも負けません」
熱い眼差しを向けたまま、キリカは言った。そう。この気持ちだけは誰にも負けない。
黒死牟は「そうか・・・」と目を細めると、キリカを抱き寄せた。
求められるまま幾度も口付けを交わす。キリカは両手を黒死牟の首に巻き付け、もたれ掛かった。嗅ぎ慣れた黒死牟の香りが鼻腔をくすぐる。ずっと、こうしていたい。
「おまえも・・・、物好きな娘だな・・・」
「・・・・?」
自嘲的な呟きに、目蓋を開けた。切なげな眼差しの黒死牟がキリカの顔を覗き込んでいる。
「この数百年、愛した娘はいた。だが、私の正体を知ると離れていった・・・。おまえだけだ。この醜い姿を見ても怖がらないのは・・・」
「醜い、だなんて・・・、そんな悲しい事を言わないでください・・・」
黒死牟の顔。ただ、整っているというだけではない。
清と濁、ありとあらゆる感情を内包した面差し。
深紅と黄金の禍々しい六つ眼。擬態した時の、闇を呑んだような漆黒の双眸。すべてがキリカの心を掴んで離さない。
「あなたが鬼だからこそ、こうやって出会えたのです。巌勝様がどんなお姿であろうとも、私の気持ちは変わりません。」
本来ならば、生を享けた時代も環境も全く異なる二人なのだ。よしんば同じ時代に生きていたとしてもすれ違う事すらなく一生を終えていた事だろう。
キリカは黒死牟の六つの目蓋に、丁寧に口付けていった。
一つずつ愛おしむように。
「キリカ・・・」
「巌勝様・・・」
唇を離した。その時。
「あっ、流れ星」
キリカが嬉しそうな声を上げた。黒死牟の肩越しに、白銀色の流星が流れていくのが見えた。
すぐに願い事を唱えた。煌めく流星に、己の望みを託す。
「流れ星に願い事をすると願いが叶うんです」