第14章 距離
「あ、すみれ」
ラビがすみれを見つけ声を発するも、すみれはラビへ返事をしない。どうやら聞こえなかったらしい。
すみれ達科学班はジョニーを中心に、あーでもないこーでもないと頭が引っ付きそうな距離でトークを始めた。
「じゃあ団服はミドル丈にしてぇ〜」
「おっ、いいんじゃね!」
「団服にフードつける?」
「えぇ!?いらないよ〜!」
すみれは「フードは無し無しっ!」と全力で否定するも、楽しそうに議論していた。
今まですみれとは一対一でしか接したことがなかったため、すみれと俺との間に“他の奴ら”がいることに、とても違和感を感じる。
こんなに楽しそうなすみれは見たことがない。すみれにとって此処はーーー黒の教団は、悪い所ではないかもしれない。
不思議なことに、ドレスやダイヤを纏っていた貴族令嬢のすみれより、薄汚れた白衣を着たすみれの方が何倍もキラキラしている。
(でも、だからって、
“此処”じゃなくてもいいじゃんか)
戦争に関係のない、安全なとこで幸せになって欲しかった。
まだ団服について熱く議論しているすみれをチラリと盗み見る。
(…すみれのヤツ、目のクマ酷いさ)
よく見るとすっげぇ窶れてる。
それは多忙な仕事のせいか、または罪悪感に苛まれてか。
(…それに、呼ばないんだよなー
“ラビ”って)
もちろん、過去の名の“ディック”とも呼ばない。それがとても他人行儀に感じる。そんな事を考えてしまった為、再びすみれに対し苛立ちを覚える。
「そういや、ラビ達とすみれって、知り合いだったの?」
「へ?」
「え?」
タップの問いかけに、ラビとすみれは不意打ちを食らったような声が同時に漏れる。
周囲からは「俺も気になってたー!」と声が沸く。
「えーっと…」
俺は何て返事をすべきかと一瞬考えていたら、すみれが慌てて先に答えた。
「ぶ…ブックマンの事は、知らなかっよ!」
すみれは少し気まずそうに、苦笑いで即答する。
すみれは俺と親しかった事を隠したいのか。それともなかった事にしたいのか。
大好きだったすみれに、俺はなかった事にされてしまうのか。