第14章 距離
ラビとブックマンが黒の教団に入団し、数日が過ぎる。
今は食堂にて、二人は遅い朝食(もはや昼食)を取っていた。いつもと変わらない調子のブックマンに対し、ラビはいつまでも皿の上のパスタをフォークで巻いているだけだった。
「…」
「…」
「さっきから何じゃい、ブスっと不貞腐れおって」
「、別に」
「ならば、さっさと食事を済ませんかい」
「黒の教団の過去を記録する」とブックマンは言いながら、黙々と口へ料理を運ぶ。
「へいへい、わかってるさ」
ラビはかったるそうに返事をするだけで、食事を進める気は無さそうだ。
彼は、黒の教団ですみれと再開後の会話を思い出していた。
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「ディック、元気だった?」
「ああ、相変わらずさ」
ラビとすみれは互いの用事を済ませ、談話室にて待ち合わせをした。
お互い、何から話せば良いのやら。
命からがらの別れから、まさか再会する日が訪れるとは思いもしなかった。親しい間柄であったが、嬉しさや驚きで戸惑っている。
特にラビに関しては、すみれが戦争に深く関わる場所に身を置いていた事に、複雑な思いだった。
「…数年ぶり、だね」
「約2年ぶりさ」
「2年かぁ。凄く大きくなったね」
「まあ、成長期だかんな」
「前は、私と身長が変わらなかったのに」
当時は二人の身長差はなかったが、今はラビの方がすみれより10cm程背が高くなっていた。
「…ディックは、すっかり変わったね」
すみれは「飲む?コーヒーだけど」と言い、2つのうち1つのマグカップをラビに差し出す。ラビは「サンキュー」と短い返事をし、熱いコーヒーが注がれたマグカップを受け取る。湯気が立つコーヒーを見て、ふとこんな事を思う。
(…以前は、紅茶を淹れてもらってたな)
すみれの屋敷の書庫室で過ごした日々を思い出す。
あの頃のすみれは化粧とドレスを纏い、美しい貴族令嬢だった。
しかし今は、スッピンで薄汚れたヨレヨレの白衣を纏った科学研究者になっていた。
「…すみれも、」
ーーーーーーー変わったさ。
ラビは言いかけて、辞めた。
それを言うのは野暮だと思ったから。
「?、どうしたの?」
「いーや、何でもないさ」