第13章 現在に至るまで
「何でッ、二人を庇うの?!そこを退いて!!」
「退かない」
ディックは両手を広げ、すみれを宥めようとする。すみれにはそれが信じ難かった
「この人達は…殺したの!私の両親をっ」
「ああ」
「だから退いてッ!」
「…それでも、やめるさ」
「どうして?!両親の、仇なのにっ…?!」
「こんな価値のない奴らを撃って、何になる?
すみれが、人殺しになっちまうだけさ!」
「それでも…っ!!」
父と母の笑顔が浮かぶ
すみれは両親の最期に一緒にいなかった。葬儀も、遺体となった両親と会えないまま
否、正しくは会わせてもらえなかった
損傷が酷く、幼いすみれには会わせられないと、周囲の大人達が判断したためだった
(どんな最期か、私は知らない…)
それでも
痛かったのではないか
苦しかったのではないか
恐ろしかったのではないか
大切な両親の命を奪っただけではなく、そんな思いをさせたのではないか。そう思えば思うほど
許せない 許サナイ
「うぅ…ッ」
憎しみが、怒りが
涙とともに込み上げてくる
「ディック退いてッ!!!」
グッ
すみれは銃の引き金に指をかける
「やめろッ!!!」
パアァーーーンッ
発泡音が講堂に響き渡る
「うッ、うぅ…うあ…」
「 すみれっ!」
ディックは膝から崩れ落ちるすみれに駆け寄り、抱き締める
「憎いのに…悔しいのに…」
「あぁ」
「許せないのに…
撃てないよお…ッ」
うわあああん、と泣きじゃくるすみれをディックは抱き締めながら、すみれの手に握られていた銃をそっと外す
「いいんさ、それで」
すみれの手から銃が離れたのを確認した叔父と叔母は、その場にヘタリと情けなく座り込んだ
すみれは発泡したものの、天井に向かって銃を向けた
「お父さんとお母さんを、想えば想うほど…ッ!憎くて仕方ないのにッ…」
「あぁ」
「同時に…撃っちゃいけないって、思ったの…ッ」
「…あぁ」
「きっと…望んでないって、思ったの…ッ」
「そう思ってるに、違いないさ」
ドドドドドォォンッーーー
突如、地響きのような音が屋敷中を駆け巡る。そして、息をつく間もなく建物の崩落が始まった