第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
そもそも
いつもと違うと感じたあの抱擁は、私の勘違いだったかもしれない
あの抱擁は、出来事は
時間にしたら数分…いや、1分もなかっただろう
(何で、特別に感じてしまったのかな)
…………欲求不満なのかな、私。
寒くなり、人肌恋しい時期になったけれども
そして、抱きつかれ離れた後。
何事も無かった様な、ディックの態度。何かあったと思ったのは、自分だけだったのか
…こんな風に悩むなんて、これじゃあまるで恋する乙女じゃないか
(………いや、確かにそうかも。というか、そうなのか……)
恋に悩むなんて、色めくなんて。
自分には1番縁遠いモノだと思っていた
舞踏会やお茶会等で、恋に空騒ぐ女性達を見て「そんな事しか、楽しむ話題がないの?」と、馬鹿馬鹿しいと、密かに見下していた。
私だって、恋ぐらい年相応にしてきた。だけど、相手の一挙一動にこんなに心乱され、嬉しくなったり悲しくなったりしただろうか。
(私も。恋に空騒ぐ彼女達と、一緒だった…いや、)
むしろ、彼女達よりどうかしてるんじゃないかと思う。あんな、4つも年下の。14歳の男の子が、好きだなんて。口が裂けても、言えることではない。
(…ううん、ディックは魅力的すぎるから)
すみれは膝にかけている、ディックの黒いストールをぎゅっと握りしめる。
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ハロウィンの日、ディックとすみれは名一杯楽しみ、ディックは屋敷まですみれを送り届けた。
『ディック!ストールありがとう』
すみれはストールを外し、ディックに返そうとするも
『あ、それもういらんヤツだから!』
『え?』
『だから、ワリィけどすみれ。処分しといて欲しいさ……んじゃ、またな!』
『ちょ、待っ…!』
ディックの黒猫の耳は、すみれの静止など聞かず。尻尾を揺らし、そのまま闇夜へ紛れてしまった。まるで、本物の黒猫のように。
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すみれはディックのストールを捨てられず、大事に持っている。ディックが返してほしいと、会いに来ることを密かに期待して。
ストールを丁寧に畳み、机の上にそっと置く。
「ディックに、会いたいな…」
すみれは自分の腕を枕に、微睡んだ。