第11章 Xmasと、おめでとう《番外編》
秋を一番に感じた金木犀の香りは、いつの間にか消え。
楽しみだったハロウィンが終わると、あっという間に冬が来る。
11月半ばにもなれば、外を出歩く人々はコートを着込み、マフラーや手袋を身に着ける。ほぅ…っと、空に向かって息を吐出せば、白い煙となって消えていく。
欧米の冬は、刺すように寒い。
「…寒いなあ」
それでも私は、書庫室の扉を大きく開ける。彼がいつ来てもいいように。
いつもと変わらず、ティーセットとお茶菓子を準備して。
なのに、
「全然、来なくなっちゃったなあ…ディック」
ハロウィンの日に一緒に出掛けてから、なかなか…というより、ほとんどディックに会えていない。
(私、避けられてる…?)
いや、そんなことない!
ないはずだ……多分。
…もしかして、“アレ”が会いに来ない原因?
「ッ」
すみれは独り、頬を染める。
ハロウィンの日、ディックに抱き締められた事を思い出す。
(…なんだか、いつもと違ったんだよね)
机の上に辞書や本を放り出し、すみれは頭を抱え込む様にうつ伏せになる。
駄目だ、少しも本の内容が頭に入ってこない。
(なんていうか、その…)
そう、色気。
ディックに、すごい色気があった気がする
ディックは人との距離感が近いし、スキンシップも多い。だから、普通に手を繫ごうと差し出してくれるし、背後からタックルのように抱きついてくることもある。
でも、あの時の抱擁はいつもと違った。
すごく大切なモノを扱うかのように、かつ、情熱的で。気持ちを高ぶらせ、煽られ、身体が疼き、心底からーーーー
ディックを、欲しがった私がいた。
ディックの顔が私の首筋に、ディックの指が私の腰に。
触れられた事を思い出すと、体中が火照る。もう身体がこんな反応を示してしまったら、認めざるを得ない。
ディックが、好き
それも、とってもいやらしい意味で。
(ディックに、もっと触ってほしかったな…)
ディックを好きだと感じたのは、初めてではない。しかし、こうも強く求めたことはなかった。
(こんな風に思っているのは、きっと私だけかもしれないけれど…)
悲しいことに、ディックはどんな気持ちなのか、全くわからない。