第9章 カラ松の過去
「わかってる、サンキュー。俺が知らないこともあるしな。だが俺のことは俺が話そう。それは今じゃないがな」
そう言って厨房に向かって声をあげた。
「野郎ども!今日は宴だ!」
「おっ?!久しぶりだぜ、バーロー!そうとわかりゃ腕によりをかけるぜ、てやんでぇ!おら、お前らもきっちり手伝えよ!」
「おう!」
おそ松と十四松が嬉しそうに返事をした。
やがて夜になり、宴にはもってこいの満月だった。ひとしきり食事をした後、カラ松自ら切り出した。
「さて、食べながらでいいから俺の昔話を聞いてもらおうかな。今まで黙っていたのは忘れていた訳じゃない。忘れるものか…!」
「船長、いいんダスか?」
「いいんだ。俺の中だけに留めておくのも限界があるからな」
「うっ…ぅう…。すまないヨーン」
泣き出すダヨーンの肩をポンと叩き、話し始める。
「あの時イヤミの手から逃げ出した俺は、出航間際の船の荷物に紛れて乗り込んだ。結局はダヨーンから聞いたようになったがな。俺の育ての親シャーザーは強く厳しく、そして優しい男だった。最初は厳しいシャーザーに随分反発したものさ。だがそれは少しでも早く俺を一人前にしたいという気持ちの現れだったんだろう。だが俺が16歳になった時、俺の不注意でシャーザーは捕まってしまった。俺たちは必死になって救い出そうとして何とか牢屋の前にたどり着いた。だが牢屋の鍵は倒した見張りの手にはなかった。その時シャーザーが言ったんだ。俺はお前に全てを託した。生き延びるために、捕まらないようにするために、海賊であることをさらしてはならない。貴族が着るような服を買って貴族に成りきれ、ってな」
「だから名前も偽ってたのか。ギルティックなんてさ、何だその名前って思ってたんだ」
おそ松が言うとカラ松はフッと笑う。
「あの時俺たちは、捕まった海賊がいつ処刑されるか分かっていなかった。今みたいに分かっていれば、助け出せただろうにな。だがシャーザーは…満足そうだった。ただその国での処刑は…火あぶりだったんだ。その光景は今でも目に浮かぶ。それから俺は努力した。強い男になるためにな」
「あれは見ている方が辛かったダスな」
「おいら、知らなかったぜ。船長がそんな過去を背負っていたなんてな」
「でも船長は、泣かなかったんだヨン。あの時から船長に幸せになってもらうと心に決めたんだヨン」