第15章 またね
浴室で特に念入りに雅龍に体躯を洗わせ
夏海はキッチンに向かった
夏海は春海を見付けると
「お兄ちゃん、準備しといてくれた?」
と、早速…酷使する算段に入る
「おう!バカ夏に言われた事はしといた」
成績優秀な兄は…
鷸隰大学と言う超名門校を退学して
家の近くの私大へ編入していた
理由は「これから忙しくなるから…」
春海の人生も…大きく歪めて…
夏海は逝く
申し訳ない気持ちは…あるが
変えられない人生は…
家族の犠牲で成り立つ事を…実感していた
「お兄ちゃん、ありがとう
そして、ごめんなさい…」
お兄ちゃんの人生を狂わしてしまって…
ごめんなさい
夏海は心から…謝った
それを春海は一蹴した
「んとにお前はバカ夏なんだから!」
春海は夏海の頭をくしゃっと撫で
笑い飛ばした
「凰星は僕の戸籍に入れる事にしたから!
僕は父になるんだからね
時間の都合のつかなくなる生活なんて捨て去らなきゃね
有名大学より、僕は凰星を育てる方の日々の方が、断然燃えてるんだから、心配なんてするなよ!
お前は余計な事は考えなくて良いんだよ!
総て…僕が引き継いでやるから…
お前は何も気にするな!」
兄の愛だった
早くしてこの世を去る
妹に…
してやれる事は…総てしてやりたい
そう願い…選択した
後悔なんてしていない
この先…後悔する予定もない
総て自分で選んだ事なのだから…
春海は…夏海にそう告げた
夏海は涙を拭いながら…
「ありがとうお兄ちゃん!」
と、言葉を遺した
これが最期の…御礼だから…
遺しておきたかった
春海は何も言わず
微笑んでいた
その顔は…一年前より大人びて
妹に背負わせて来た神楽の家を背負う
覚悟と…
信念を見せていた