第11章 宝物
家族が出て行くと雅龍は、夏海を抱き締めた
「我の子が…出来たのか?」
「……そうみたい…」
嬉しさが…込み上げる
だけど…悲しさも込み上げる
雅龍は悲しさを打ち消して…
喜びを露にした
「夏海と我の子だ…嬉しい」
「雅龍…」
夏海も嬉しそうに笑った
「行くとしようぞ」
雅龍は優しく夏海の背を抱くと
香住の待つ駐車場へと歩いて行った
車のドアを開け
夏海を乗せると、雅龍も乗り込む
蕩けそうな雅龍の顔を見て
お婆様と香住は…
胸が痛みだす
辛い想いを…
喜びで打ち消し…
笑う
どれだけの想いで…
飛鳥井家 主治医の病院に到着すると
待ち構えていた様に、香住の車の方へ
近寄る男性がいた
「緑川 慎一と申します
あなた方がおみえになられる頃だろうと仰せつかって参りました
康太は…今は席を外せません故に、俺が同席致します!」
と、丁寧に頭を下げ挨拶をする
お婆様は車から降りると…
「真贋に宜しくお伝え下され」と礼を返した
「主治医が待ってます
着いて来てください」
慎一が言うと、お婆様や香住、夏海と雅龍がその後を着いて行った
待合室のソファーに座っていると、看護婦が夏海の名前を呼び上げた
「神楽 夏海さん」
呼ばれて立ち上がると、看護婦が近寄って来た
「神楽 夏海さんですね
尿検査を先にしてして下さい
入り口横のトイレに紙コップを置ける場があるので、そこへ置いておいてください」
看護婦はそう言い紙コップを渡した
夏海は紙コップを受け取り、トイレへと向かった