第18章 抱擁メルティ!【Floyd】
「私、勝手に怒って、それからずっと…謝らないとって思っていたんですけどずっと…言えなくて。」
「うん」
「意地になっていたんです。フロイド先輩の言う通り…私は強がりで」
「そっかぁ」
フロイドはユラユラと揺れながら彼女の話を聞いた。
ウン、ウン、と魔法史の授業中よりもおとなしく相槌を打った。
途中で口は挟まなかった。
黙っていれば、監督生の方から話してくれた。
ずっとしまい込んでいた気持ちが溢れてくるように。
「でも、大事なことは言葉にして伝えないとって、ジェイド先輩が教えてくれたんです」
「ジェイド?」
「はい。」
・・・
昨日のこと。
実はジェイドは、フロイドから「小エビちゃんに怒られた」と聞かされる前から、監督生の相談に乗っていた。
この日も、オンボロ寮前にて二人は話をしていた。
「監督生さんは少々フロイドを甘やかし過ぎかと。貴女は奥ゆかしく慎ましやかでいらっしゃるが故に、思ったことをあまり仰らない。それだから、フロイドはどんどんワガママになっていくんです。」
監督生は今回も、不満を直接伝えなかった。
だから、こうして一人で悩み、理由も伝えずに一方的に怒ってしまったのだ。
まあしかし致し方ない。
女はこういう生き物だ。
女の子は少しばかり大人だから、男に理解できるほど単純ではないのだ。
「ですから、少しずつ練習をしましょう。フロイドに監督生さんの気持ちを伝えるんです。」
「はい、ジェイド先輩、ありがとうございます。先輩はいつも堂々としていて…羨ましいです」
「そんなことはありませんよ。僕も以前、"ある先輩"から言いたいことは我慢せず伝えるべきと、ご忠告頂いたばかりなので。」
それからジェイドは練習のためにと、言ったのだ。
「では、言ってみましょう。"フロイドのわからずや"。さん、はい」
・・・
あとは知っての通りである。
よりによってフロイドは、監督生が心の中の蟠りを吐き出すように「フロイド先輩のわからずや」と叫ぶ場面へ遭遇してしまったのだった。