第14章 略奪ライアー!【Trey】
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翌日、監督生はトレイが元気になって登校しているとの連絡を受けて、ほっとした。
今日も放課後に会いに行こう。
というか、ほぼ毎日会っているかも。
まあ"好きな人"と毎日会いたいという気持ちは普通かも知れない。
「なー監督生」
「?エース、なに?」
1限目が始まる前に机の上で教科書を整えていると、隣に座ったエースが何やら顔を寄せてきた。
内緒話でもするのかな、と反射的に監督生も近づく。
「な。監督生ってさ、アイツ振った?」
「アイツ…?」
「この前お前のロッカーに手紙入れたやつ。」
「ああ〜。お断りしたわ」
「やっぱ、それってトレイ先輩と付き合ってるから?」
「え?!」
「うるさ」
いやいや。違う。
トレイ先輩とは付き合っていない。
クラスの人が数人こちらを振り返ったが、小声になって続けた。
「違うよ、だって私彼氏いるもの」
「え?…あー。そういえば前に元の世界に彼氏いるとか何とかって。かんっぜんに忘れてたわ。」
「そう…私、彼氏…いるから」
言いながら、「アレ?」と思う。
そうだ。
私、彼氏がいるんだった。
「でもおかしいわね、今の今まで彼氏がいたことすっかり忘れてた」
「は、何だそれ。彼氏カワイソー。トレイ先輩の方が寧ろ彼氏っぽかった?」
「どうしてさっきからトレイ先輩トレイ先輩っていうの」
「えだってスゲー噂になってるぜ。お前とトレイ先輩」
「付き合ってるって?」
「そう」
「うそぉ」
その時、教室に先生が入ってきてチャイムが鳴る。
エースはヤベッと教科書を鞄から引っ張り出して席に着いた。
(おかしい。)
魔法が解けていくように、忘れていた自分の彼氏のことを次々と思い出していく。
そして彼氏の話を聞いてもらっていた、トレイ先輩。
そのトレイ先輩に追いつきたかったのは、どうして。
気を引きたいと思ったのは、どうして。
私の好きな人は、誰だったっけ。