第14章 略奪ライアー!【Trey】
ではトレイの言った『本気にする』の意味は何だったのだろうか。
あなたを狙っているというメッセージを真剣に受け取る、ということ。
それが嘘になるという意味か。
だったら、彼は永遠に監督生からの好意を受け入れてはくれないのだろうか。
いやでも、トレイの話だと嘘には真実を含ませる必要がある。
今の嘘に隠された真実は何だったのだろうか。
監督生は頭がごちゃごちゃしてきた。
同時に、胸はモヤモヤしてきた。
いずれにせよこの人、腹の底が全く読めない。
「とにかく。今日は来てくれてありがとうな、監督生。しかしお前にうつしてしまったら責任を感じて、先輩また寝込むかも知れないな。」
「ふふ」
「寮長に怒られるのも避けたいな。だから俺を助けるつもりで、今日はもうオンボロ寮に帰ろうな。できるか?」
「嫌です」
「ん???」
「嘘ですよ」
「はは、こいつ」
監督生はやっぱり、トレイと話していると楽しくてピカピカと笑って帰っていった。
「安静にしていてくださいね」「欲しいものがあったらすぐ連絡してください」「また来ます」と言って、手を振った。
悔しいけれど、何を考えているか読めなくても相手をしてもらうのが嬉しいのだ。
自分に構ってくれる彼の言葉に、他意など無いと信じていたいのだ。
・・・
彼女がいなくなって、静かになった部屋で一人、トレイは呟いた。
「今日は悪い子になれてたな。」
正直、驚いた。
どういう訳か最近悪い子のふりをする(恐らく自分の気を引こうとしている)監督生を見て、『ああ、こいつは永遠にいい子のままだろうな』と思っていた。
それなのに、あんなにタチの悪い嘘を言うだなんて。
吐いていい嘘とそうじゃない嘘がある。
そして吐いていい相手とそうじゃない相手。
嘘を吐くのは簡単だが、吐かれるのはこうまでもどかしいとは。
監督生が俺のことを好きになっていると思っていたが、所詮は"いい先輩"止まりという事なのだろうか。
そう思った矢先、ついついムキになってしまった。
「熱くなるのは得意じゃないんだけどな」