第9章 独占マーメイド!【Azul】
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「ぷは、」
アズールの空間転移魔法により、二人が顔を出したのはモストロ・ラウンジ内の水槽だった。
「あ〜〜〜帰ってきた」
「おかえりなさいませ。おやおや、ずぶ濡れでいらっしゃいますね」
放課後のラウンジを訪れていた生徒たちは「何?」「アズくん寮長とカントクセーだ」「すげー格好」「タコになってる」とザワザワし始める。
小エビちゃ〜〜、とフロイドが大きく腕を広げる。
監督生は全身に視線を浴びながら、水槽を飛び降りる。
「ナ〜イスキャッチ、オレぇ」
フロイドに受け止められてラウンジの床に足を下ろすと、アズールはいつの間にか人の姿に戻っていた。
不思議なことに、彼は少しも濡れていない。
「アズール、仲直りはできましたか?」
ジェイドが問いかけるもアズールは無言だった。
人間の手で、監督生の濡れて顔に張り付いた髪を退ける。
そして片手で彼女の頬を包み込み、そのまま唇を重ねた。
「できたんですね」
「ちゅーした!アズールが小エビちゃんにちゅーしてる〜〜〜〜!」
真実の愛のキスであった。
周りの生徒たちは大ブーイングを飛ばし、しかしアズールは全く気にせず続けた。
まるで世界に二人だけしかいないみたいに。
監督生はびっくりしたが、されるがままに目を閉じていた。
鼻にトン、とアズールの眼鏡が当たる。
今まさに彼は、監督生を"手に入れた"とアピールし、牽制しているのだ。
「何コレ、オレら何を見せられてんの?」
「わからない…」
偶然居合わせたエースとデュースも、ポカンと口を開けていた。
一呼吸置いてアズールは唇を離した。
見れば、監督生の白い腕や脚に赤くて丸い痕がクッキリ残っている。アズールの吸盤が齎したものだ。
それは自分のものである証のようで喜ばしい。
それからアズールは何ともない顔をして
「…さて、着替えましょうか。風邪を引いてしまってはいけない」
と彼女の冷えた手を引いた。
生徒たちは「実家帰れ」だの「爆ぜろ」だの思い思いの罵詈雑言を浴びせたが、アズールの耳には全く入ってこなかった。
どうでもよかったのだ。
「ああすみません、陸に上がったばかりでは歩きにくいですね」
涼しい顔をして監督生を姫抱きにし、消えていった。