第8章 三日月スプーキー!【Malleus】
「僕を呼んだな?」
◆
目が覚めた時、監督生はマレウスの腕の中にいた。
オンボロ寮談話室のソファに腰掛けるマレウスの膝の上、お姫様抱っこされるように彼女が横たわる。
「ツノ…太郎…?」
「おやおや。目を覚ましたのか、人の子?」
状況を呑み込めない監督生は、ぼーっとしたまま数回、目を瞬かせる。
「二度と目覚めないのかと思ったぞ。」
フフフ、と彼は笑う。
「夢…?」
「夢は幻だと言うが。」
いや、夢ではない。
監督生は思い直す。
だって、この目で恐ろしいものを沢山見たし、この体で怖い思いを散々味わったわ。
「!全部ツノ太郎がやったの?」
起き上がって、急いでツノ太郎から離れた。
すると、彼は何故か自信満々な顔で、
「全て僕の幻覚魔法だ。」
と。
…はぁ、と大きく肩で息を吐いた。
「本当に、怖かったんだから」
酷い。そう思ったけれど疲労困憊、もう怒る気すら起きなかった。
「?僕はここに居る」
ガクリと俯く彼女の髪を、ツノ太郎の冷たく長い指が耳にかける。
「この古びた館が牙を剥いても、空高くまで飛ばされても、おぞましいドラゴンが目を光らせても。お前が呼べば僕は傍に居よう。」
気高き妖精・マレウスは自慢げに牙を見せ、微笑んだ。
…彼が傍に居るということ。
この言葉の意味は即ち、この学園で最強の力に守られるということだ。いや、もしかしたらツイステッドワンダーランド最強の。
それを、彼女は知らない。
「ツノ太郎が?」
どうもピンと来ていない様子の監督生にマレウスは少しムッとして言った。
「この僕がついていながら、何をお前が恐れることがある?」