第8章 三日月スプーキー!【Malleus】
…つまり。
『これ程の目に遭ってもお前には僕がいる。だから歌のテストくらいで怖気付くな』
ということだ。
監督生は暫し思案し、ツノ太郎が自分を励ましたかったのだとやっとのことで気がついた。
それにしてもやり方が斜め上過ぎる。
「…お前に、美しい歌声の贈り物を。」
なんて不器用なんだろう。言葉でそう言ってくれればいいものを。この学園の生徒は皆こうなんだろうか?
だけど、とても純粋でわかりやすい人…かも知れない。
…あ、人じゃなかったわ。
監督生はツノ太郎なりの精いっぱいの励ましに免じて、怖かったけれど許してあげよう、と思った。それに…
「?どうした」
不敵に笑う彼は、間違いなくナイトレイブンカレッジでもトップのヴィランの顔だった。
けれどその悠々とした笑みに、どういう訳かトキめいてしまった自分が居たのだ。
彼の顔を見た時、ホッとしてしまった自分が居た。
あれ程の魔法を使えるというのに、人間のような小さな理由で悩んでいた彼を可愛いとも思ってしまった。
「何でもない。」
「?そうか。」
だけど、まだ気付かないふりをしよう。
明日、帰ってしまうかも分からない自分がそんな感情に構ってはいられないのだから。
◆
そして、ゴオン、という12時を告げる鐘が鳴る。
日付が変わるとツノ太郎は帰ってしまうのだ。
「僕はもうお暇しよう。…人の子よ。次も必ず呼べ。須らくお前の傍へ現れよう。」
「…まって」
急いでその大きな背中を追いかける。
「あなたのお名前は、本当は何というの?あなたを呼ぶ時、何と呼べばいいの?」
「…フ、」
マレウスの右手から、金色の光の粉が舞う。
それは監督生を包み込むと瞬時に眠らせてしまう、マレウスの魔法だった。
「…ではツノ太郎と。」
空中に浮きながら眠らされた彼女は、マレウスがマジカルペンを振れば2階の方へとふわふわ流れていく。
(ベッドまで運んでやるとしよう)
マレウスは魔法でオンボロ寮の灯りを消し、三日月の光る夜空へ歩きだした。
「おやすみ、人の子。お前は僕の夢だ」