第3章 放浪記
『肝に命じておきます』
グラスの中の氷がカランと音を立てた。
酒場にはお客さんが誰もいないからその音が響く。
たくさん用意していたはずの言葉が思い浮かばない。彼になにを言うつもりだったのか、頭の中が真っ白になってしまった。
「そういや、お前に渡すもんがある。」
ガープ中将は席を立ち上がると、荷物はそのままで酒場を出て行った。
しばらくして戻ってくると、左手には見覚えのありすぎる刀と、右手には銃があった。無言でそれを渡される。
『え、武器、ですか…?』
「お前以外に“それ”を使いこなせる奴はおらんわい。
持ち主のもとに帰りたがっておったしな。
それより!!!その呼び方やめんかい!!」
急に怒り出したかと思えば私の呼び方が気に食わないらしい。まあ、確かに海軍を(勝手に)辞めた身としてはもうその呼び方も違和感を感じる。
『…おじいちゃん、でいいでしょうか。』
すると、口角を上げて満足そうに笑った。
しかし席には座らず呑気に袋をガサゴソあさり、煎餅を食べ始めた。
「食うか?」
『…いえ、それよりお願いがあるんですけど』
「なんじゃ。」
『偉大なる航路のどこかの島に連れて行って欲しいんです。』
ここまで迷惑をかけてきて、世話を焼いてもらったことはもちろん承知の上だが、今しかチャンスがないと思った。
航海術な最低限は身についているが、凪の帯を航海出来るほどの技量は持っていない。
『海軍の船でどうにか切り抜けられればその後は自分でどうにかします。だから…』
「構わんぞ、何をそんな深刻に…」
頭を下げようと思っていた矢先に軽い口調でそう言われた。こういう決断というか許可してくれるところに、私は相当甘やかされてるな、と自覚する。
「しかしワシァもうここを出るぞ?」
『…急いで準備してきます』
慌ててエプロンを取って畳み、テーブルの上に置くとそのままダダンのもとへ行こうと酒場を勢いよく出たのだが、
「そんなに慌ててどうしたんだ、
…ガープの野郎はいるんだろうな?」
『ダダンさん…なんでここに?』
酒場のすぐ外で目的の人と鉢合わせた。
『私今日ここ出てくから!』と報告すると
「またお前は急に!!!!」と怒り出した。
うん、それはごめんね
なんて心で謝りながらも酒場にいるガープ中将のもとへと案内する。