第3章 放浪記
「麦わら屋に2週間安静にしろと伝えとけ。
麦わら屋の意識が戻った今おれはもうやることはねェが…
お前はどうすんだ」
『私は…そうね………
とりあえずルフィの“無事”を確認するまではここに残るつもり。』
海賊王の娘とバレた時点で私はもう海軍に戻れない。
そんな私には行く宛なんて無いし、ルフィが自我を取り戻すかも不安なため残ることにした。
それを告げると、聞いてきたくせに興味なさげに「そうか」と返事をして、右手で青いサークルを作った。私の記憶上、これをする時は彼が瞬間移動するときの技だ。
『待って!』
慌ててトラファルガーの腕を掴む。
青いサークルが消えたのを確認すると、掴んでいた手を離してお辞儀をした。
『治療とか色々、本当にありがとうございました。』
トラファルガーの不機嫌そうな顔を見上げる。
「気にするなといったはずだ。」
『確かに言われたけれど…』
この人は友達でも無いのに、私の大切な弟を救ってくれたのだ。まさに命の恩人。礼を言っても言い切れないくらいに感謝している。
それに、
『海賊に借りはつくらない主義なの。
だから、いつかあなたたちが困ったときは借りを返す。
約束するわ。』
「…好きにしろ。」
「キャプテーン!!!!
もう準備できたよー!!!!」
船からの声にトラファルガーは「今行く」と返事をすると、今度こそ私の前から消え、彼のいた場所には小さな石が転がっていた。
『あなたたちもありがとう!!!』
黄色い潜水艦に向かって礼を言うと、つなぎを着た船員達が「気にするな!」とか「またな!!」と言ってくれ、笑顔で手を振ってくれた。
それを見送ると、冥王の方に向き直った。相変わらず海水で濡れた服をバサバサと叩いている。
「ルフィ君の無事が確認できたら、君はどうするんだい?」
『そうですね…』
初めての”自由”に少し戸惑う。
今までも何かに縛られていたわけではないが、海軍という組織に守られていたのだ。それがなくなった今、私は何をするにも自分の身は自分で守らなければならないし、その分何をするにも勝手が利く。
とても悩ましいところだ。