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《イケメン戦国》時を越えて

第11章 時を越えて〜春日山城〜


〜謙信目線②〜
俺の中の舞が決定的に変わったのは、木刀を交えた時だ。終わった後に豊臣秀吉と舞が会話する中で
『謙信様はどんな相手でも真剣に向き合う人なんだと思う。それが謙信様にとって相手への敬意の示し方なんじゃないかな。ーー誰に対しても平等に向き合う人なんだと思うよ。』
そう舞は言った。
「女相手に」となじられても仕方ないと思っていた俺は驚いた。と同時に嬉しかった。舞が俺という存在を許してくれた気がした。

それから舞は俺の中の『特別』になった。
(伊勢姫という己にかけた呪縛を解放しよう)
そう思うと、日々に憂いを感じなくなった。
手作りの守りを懐に大事にしまい、舞のために部屋を準備する、そんなことに心が踊った。『生きている』と実感できた。
俺を『生かす』存在を大事に、己の全てをかけて守りたいと思った。


それなのに…
それはまたやって来た。

舞が『高熱で倒れた』と聞いた瞬間、愕然とした。
(また己のせいで、大事な女が犠牲になる)
そう思うと、心の臓が苦しかった。
城へ着き、精気のない舞の顔を見た時は絶望しかなかった。

そんな俺の目を覚まさせたのは家康だった。
『舞に口移しで食べさせる』と言う家康に食ってかかった俺に
『今はそんなことを言ってる場合じゃない!このまま放っておけば、あの子は死ぬ。命が懸ってる!』
と怒りに満ちた目で怒鳴った。
その通りだと思った。そして、己は無力だと思い知った。今だけじゃない、清姫の時も伊勢姫の時も結局俺は何もできなかったのだ。何もできない自分を認めるのが怖くて逃げていただけなのだとようやく気付く。

家康に言われ、舞の体を起こすとその軽さに怖くなる。
(やっぱりダメなのか)
そう思った俺に対して、舞も家康も『生きることを』を諦めなかった。
舞は重湯を自力で飲み込み、家康はそれを声を掛けて励ます。そしてーー

舞は目を開けた。

舞は擦れ途切れる声で俺が『温かい』と言った。
そうだ。俺は生きている。
そして、舞も生きている。
生きているから温かい。
そんな当たり前のことに気付き、胸が、目の奥が、熱くなった。

それから舞は、『熱が出たらいつも母上が食べさせてくれた』という、りんごを完食した。

舞は『生きよう』としている。
俺が『生』を喰らう鬼だろうと、舞は負けずに生きる。
鬼など寄せ付けぬほどに強く、そして温かく。
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