第3章 そろえましょ【夾】
「もおー!早く会いたいんですけどぉおお!?」
『うっせ。声でけぇ』
スマホの向こうから聞こえる声は大好きな夾の声。
とてつもなく怠そうに対応されているが、そんなもんいつものこと。
なんだかんだで優しいこの人は、それでもちゃんとこの長電話に付き合ってくれる。
いや、付き合ってもらわなければ私の夾メーターなるものが持たない。
なんせ既に2ヶ月は会えていないのだから。
私達が付き合い始めたのは、夾が高校卒業したその日。
両想いだった!彼氏できた!と浮かれていた私に告げられたのは夾が遠くの道場に就職するということ。
まさに天国から地獄へと落とされた瞬間だった。
だが、夾が言った「お前が高校卒業したら迎えに来るから」という言葉と、2、3ヶ月に1回のデート。
そしてこの長電話を支えに頑張ってきたのだ。
「そこは、俺も会いたいよひまり!とか言うべきだと思わない?」
『あ?あぁ、そうだな』
「はい!じゃあリピートアフターミー?」
『は?』
「す!!」
『…す』
「き」
『き』
「はい!じゃあ続けて言って!」
『……好き』
「きゃーー!!!」
『……馬鹿だろお前』
呆れたような声と共にフッと笑う夾。
「馬鹿でいいんですーそれだけ好きなんですー」という私の言葉にまたククッと喉で笑う声が直接耳に届いて堪らなく愛おしくなる。
そしてもうひとつ支えになっているのが…
「ねぇ、そーいえば届いた?」
『あ?マグカップか?あぁ届いたよ。またお得意のアレか?』
月に1回、彼とお揃いの物を買うこと。
そしてそれを強制的に送りつけること。
「そうそう!お得意の!!可愛いでしょ?それね、私のと合わせると黒猫の尻尾の部分がハートになるんだよー」
『ふーん』
「テンション低ッ!?もうちょっとさぁ、ひまりありがとう!大切に使うよっ!みたいな言葉ないのー?」
『あぁ、ありがとな。毎日使うよ』
「きゃーーっっ!」
『馬鹿だろ…お前』
ブレスレットやスマホケース、目覚まし時計やハンドタオル等。
お揃いのものが増えていくにつれ、離れてるけど同じ物を使ってるんだなぁという勝手な自己満足でこの遠距離を乗り越えてきた。
だがこの電話を最後に彼への不信感が募っていく事になる。
そして私が卒業するまであと約1ヶ月…。