第1章 怪盗ミューズ
カラ松警部は悔しさに親指を噛む。
「それを待つしかないか…」
だが数日後、カラ松警部に届いたのは『DNAは館主のイヤミのみ』という知らせだった。指紋も髪の毛も、彼女に関わる物がなにひとつ残っていないことになる。
「さすがに用心深いな。証拠を残さないとは」
深いため息をついて頭を書きながら喫煙所に行ってタバコを吸う。ふーっと吐きながら彼女のことを考えた。
「根はいい子なんだろうな。盗まれた物を取り返すんだから」
そうつぶやいて新聞を見る。一昨日の新聞だ。
『大富豪イヤミ 一夜で一文なし!』
一面に大々的に載った記事は、イヤミがメイドに扮した怪盗ミューズに対して行っていた性的暴行の数々を記していた。彼女がカラ松警部に渡したボイスレコーダーも動かぬ証拠となり、さらには屋敷にあった物のほとんどが盗品とあって、イヤミは全財産を失ったあげく刑務所行きとなったとある。
「…業ってやつか。悪いことは出来んもんだ。だがミューズはなぜあのダイヤに執着したんだ?それともイヤミを動かすには格好の餌食だったか…」
いずれにせよ、彼女の逃走経路も解らず痕跡すらも見つからないのでは、手も足も出せない。
「警部!こんなところにいたんですか」
「悪かったな、こんなところで」
「あの後もう一度鑑識に聞いたんですが、イヤミの屋敷にカツラの髪があったんですよ」
「カツラの髪?」
「ええ。しかも屋敷にはカツラなんてどこにもないんです」
カラ松はハッとしてタバコをもみ消した。
「もしかしたら怪盗ミューズが使っていた可能性があるな!」
「そうなんです。ですから警部にお伝えしようと」
カラ松警部は部下の背中をバンバンと叩いた。
「よし、その髪がどのカツラの物なのか、調べてもらおう!」
早速鑑識のところへ走って行った。勢いよくドアを開ける。
「おい、イヤミの屋敷で見つかったカツラの髪を」
「調べてますよ」
最後まで言う前に結果を示したメモを渡される。
「でも、期待はしない方がいいですよ」
メモを見ると、その髪はどこにでも売っている物で、ミューズがいつどこで買ったのかわからない。さらにイヤミはメイドを雇う場合、面接は面談のみなので、いつ彼女が雇われたのかも知れず、近所の人はできるだけイヤミには関わらないようにしていたため、メイドが何人入れ替わったかも知らない。
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