第1章 怪盗ミューズ
「怪盗ミューズ、見参!」
メイドは怪盗ミューズだった。メイド服を脱ぎ、黒のレーシングスーツに身を包み、仮面をつけている。彼女は慌てる警察を尻目に窓を破って外に出る。
「イヤミを頼む!」
「はい!」
カラ松警部が追うと、彼女は隣のビルに入って非常階段を昇るのが見えた。追いかけるカラ松警部。ついに屋上まで上ってきた。
「はぁ、はぁ…。追い詰めたぜ、怪盗ミューズ!」
「へぇ、根性あるじゃない。普通ならエレベーター使うのに」
「え?…あ」
「ふふっ。素だったの?面白いわね」
「どうやってダイヤを盗んだんだ?」
「あら、それを聞いて私が素直に答えると思ってるの?それと勘違いして欲しくないんだけど、あのダイヤはイヤミが盗んだ物で、私は盗られた物を返してもらっただけよ」
「何故そんなことを?君がしなくても警察に任せれば」
「警察に任せたこともあったわ。そしたら証拠がないって言って、鼻で笑われてほったらかしにされたのよ。どうせあいつが金をばらまいたんでしょ。だから私は警察なんて信用しないの。…あなたは少し違うようだけど」
そう言って金網に手をかけるミューズにカラ松警部は慌てた。
「待て!そこから飛び降りる気か?!12階建てのビルだぞ?!落ちれば無事ではすまない!」
そんな言葉に妖艶な笑みで返すミューズ。月明かりに照らされたその微笑みが美しく見え、カラ松警部の胸を高鳴らせた。
「あら、心配してくれるの?優しいのね、カラ松警部」
「……名前を、聞かせてくれないか?」
「あははっ。本当に面白いわね、あなた。そんなの教える訳がないでしょ。じゃあね、イケメン警部さん。また会いたいわ」
クルッと身をひるがえし、ビルの屋上から飛び降りた。カラ松警部が金網にたどり着くとすでにミューズが、フライングボードに乗って去って行くところだった。
カラ松警部はとっさにレシーバーを取り出し連絡を取る。
「こちらカラ松。メイドが着用していた服を探して検察に渡せ。DNAを採取する」
『了解しました!』
ビルから降りると部下が走ってきた。
「警部!」
「逃げられた…」
「こちらもやられました。メイド服が見当たりません」
「なにっ?!……尻尾も掴ませない、か。ふっ、とんだギルトレディーだぜ」
「今鑑識に館を調べさせていますので、何かしら出てくるかと」
![](/image/skin/separater38.gif)