第5章 手に入れた宝石
柵越しに海を見れば、ネオンが反射してもうひとつの街を創りあげていた。
「いいの?こんなことして」
「まあ、始末書もんだな」
「馬鹿ね」
柵に背中を預けて○○を見ると、恥ずかしそうにうつむいている。指で顎を上げさせて彼女を見つめた。潤んだ瞳が見つめ返す。
「俺は警部だ。だが君の前では、ただの男でいさせてくれないか」
「……カラ松警部…」
「ノンノン。カラ松だ」
「………カラ松…」
○○の腕がカラ松の首に回される。カラ松もそれに応えるように○○を抱きしめ、どちらからともなく口づけた。
「…愛してるぜ、ハニー」
「私も…。初めて会った時から好きだったの」
「もう怪盗はやめるんだ」
「ふふっ。イヤミもブラックも、東郷も捕まったなら、怪盗としての私は終わったわ」
「ふっ。なら、よかった」
ピリリリリ ピリリリリ
「カラ松d」
『ごるぁクソ松ぁ!とっとと帰って来やがれ、ボケェ!殺すぞ!』
「オーゥ、アイムソーリー!カムバックスーン!」
一松警部の声は○○にも聞こえるほどに大きく、○○はクスクス笑っている。
「ふふふ。早く戻りましょう?」
「ああ、そうだな」
車に戻り、走らせる。
「○○」
「なぁに?」
「今度こそ幸せにしてやるからな!」
「うん!私ね、カラ松となら幸せになれる自信あるわよ」
署に戻ったカラ松を待っていたのは、一松警部の怒りの叫びだった。何を言ってるのかわからないが、何となくわかるという奇妙な叫びだ。
一方○○はというと、おそ松警部の取り調べを受けていた。とはいうもののおそ松警部はその場を和ませまくるので、彼にかかればどんな相手でも、ついうっかり事実を話してしまうのだ。はた目から見るとただ世間話しているようにしか見えないため、役立たずと思われているが実は敏腕なのだ。
取り調べ室から出てきたおそ松は、心配そうにしているカラ松の肩を叩いた。
「大丈夫だよ。彼女は白だ」
「よかった…」
「たださ」
「えっ」
「警官を一人、縛り上げてたんだろ?あれがどうなるかなんだよね」
「あー…」
確かに彼女は警官を一人縛り上げている。公務執行妨害は免れない。しかし縛り上げられた本人は、うとうとしてしまって気づいたら縛られていたと話していた。