第1章 始まりの章
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薄い板のような長方形の”スマホ”と呼ばれる電子機器で、ある少女はアニメなるものを常に見ていた。
その世界では、アニメオタクと言われる部類の人間だった少女は、ジャンル関係なく様々なアニメを見漁っては推しを作り、イベントに参加し、お金を使っていた。
その日は、同じアニオタの親友と一緒に某アニメグッズショップに行った帰り。
「いやぁ、買ったねぇ、買ってしまったよ~」
「満足満足!またお金貯めて来よう!」
「いや、金貯めんでも来よう!」
「商品入荷時に来よう!」
ふたりとも、会話に熱中しすぎて、渡った交差点の信号が、赤だったことに気が付かなかったのだ。
その日は朝から天気が悪く、空には分厚い雲がかかり、大粒の雨が降っていた。
広くも狭くもない道路から、車のライトに照らされる。
眩しくて思わず目を細め、あ、これはダメなやつだ。
そう理解したときにはもう遅かった。
ガンッと鈍い音がし、ドクドクと体から血が流れる。
うまく息が吸えず、何よりも体中が痛くて動かせない。
暑いのに寒い。何だこれ。痛い。痛い。目に涙が溜まってく
る。
「みき…」
親友の名前を口にし、朦朧とする意識の中手を伸ばす。
周りの音がうるさいはずなのに、どこか遠くの音に感じた。
ああ、死ぬんだ。せめて、せめてみきだけでも助かってくれれば…
私の記憶は、そこで終わった。
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